厚底シューズはなぜ速いのか?実際に履いてみた感想やシューズを紹介!
2017年のBreaking2以降、厚底のランニングシューズが急増しました。
現在、ナイキでは薄底のシューズを探す方が難しく、他のメーカーでも厚底シューズが増えています。また、ナイキのヴェイパーシリーズに追随するように、各メーカーでは厚底のスーパーシューズが作られています。
シューズの規定が変わり、トラックでは厚さ25mm以上のシューズが禁止になったことから、その影響はスパイクにまで及んでいるでしょう。
今回は、実際に厚底のスーパーシューズをいくつか履いたので、その仕組みと感想を紹介したいと思います。
- トップ選手が望んだクッショニング
- 厚底だから速いのではなく、高性能な素材だから速い(厚底スーパーシューズ)
- 2つのタイプのカーボン搭載シューズ
- 厚底スーパーシューズを履けば誰でも速く走れる?
- 厚底スーパーシューズとランナーのそれぞれの役割
- 厚底スーパーシューズでパフォーマンスを高まるために必要なこと
- 厚底スーパーシューズの種類
トップ選手が望んだクッショニング
従来のランニングシューズは、スピードを出すために軽量で反発力が高い薄底モデルが主流でした。箱根駅伝の選手のシューズを見ても、2017年大会では以下の薄底シューズを履いている選手が目立ちます。
・アシックス:ソーティ系(ソーティマジック、ソーティジャパンセーハ)
・ミズノ:エキデン・クルーズ
・アディダス:タクミセン
・ナイキ:スピードレーサー・ルナスパイダー
それまでのマラソンの世界記録はアディダスのジャパンシリーズ(デニス・キメット選手)によるもので、このときナイキの主力は「ズームストリーク」でした。
※リオ五輪では、キプチョゲ選手やラップ選手はヴェイパーのプロトタイプである「メイフライ」を着用。
薄底シューズはスピードが出やすい/でもクッション性はない
薄底にすることでシューズを軽くすることでができ、足を運ぶ動作の効率が良くなります。また、接地したときのパワーをそのまま地面に伝えられるため、高い反発力を得られます。そのため、スピードに乗りやすいでしょう。
→ランナーが生む推進力をそのまま活かせる
しかし、ダイレクトに反発を使える分、シューズによるクッショニングは期待できないため、体が受ける衝撃は大きくなります。
→薄底シューズで練習し過ぎるとダメージが蓄積して怪我に繋がる
→マラソンなどの長距離を走ると体の負担が蓄積して、後半はダメージによって失速するリスクがある
厚底シューズはクッション性が高い/でも反発力は低い
薄底シューズに対して厚底シューズの場合、分厚いミッドソールが接地時の衝撃を吸収します。そのため、脚にかかる負荷が小さくなるため、ダメージを抑えられ長い距離を走っても最後まで脚が持つようになります。
そのため、脚の筋力が低い初心者ランナーや怪我を予防するランナーに適しています。
→怪我を予防するなど、脚を守る役割がある
しかし、ミッドソールのボリュームを増やすことでシューズが重くなるのが最大のデメリットです。
さらに、地面からの衝撃は和らげられますが、同じように地面からの反発力も吸収してしまいます。他にも、厚底になることにより地面と足との間に高低差が生まれるため、安定感も低くなります。そのため、厚底シューズは重く反発力が低いため走りにくとされていたのです。
→シューズ自体が重い
→反発力が吸収される
→安定感が低い
⇒スピードが生まれにくく走りにくい
マラソンのトップ選手はクッション性を望む
ヴェイパーシリーズはBreaking2、つまり「マラソン2時間切り」を目的に開発されたシューズシリーズです。そこで、開発のためにマラソンのトップ選手の意見を聞いたところ、軽くて反発力があるだけでなく後半まで失速せずに走れる「クッショニング」を求めていました。
しかし、この軽量性・反発力・クッショニングを両立するのは、今までの常識で考えると矛盾しているため、非常に難しい課題でした。
厚底だから速いのではなく、高性能な素材だから速い(厚底スーパーシューズ)
この課題を解決したのが、ナイキが開発した「ズームX」フォームです。このズームXフォームは、厚底にしても走りやすいほどに軽量であり、弾性があるため接地時のパワーを失うことなく反発します。それでいて厚底なので、脚にかかる負担を軽減することに成功しているのです。
さらに、ミッドソールには「カーボンプレート」も内蔵されています。
ヴェイパーはスプーン状のカーボンプレートを搭載
カーボンプレートは大きく分けて2つの役割があると言われています。
1つ目は接地感・安定感を高める役割です。柔らかくて弾力がある素材を使い厚底のミッドソールを作った場合、踏み込んだ瞬間に足がかなり沈んでしまいます。この状態では、しっかり接地することがなく、足がブレてしまうので力が地面にしっかり伝わらないでしょう。
そこで硬いカーボンプレートを挟むことで、安定感を高めて走りやすくしています。また、プレートがあることでしっかり母指球で蹴り出せるようになります。
2つ目は、カーボンプレートが「しなる」ことで得られる反発力(推進力)です。シューズのコンセプトによって異なりますが、ヴェイパーのようなスプーン状のカーボンプレートであればある程度の推進力を得られます。この推進力により同じ努力量でもストライドが伸びることで、タイムが縮むといわれています。
ランニングの動作では、走法に関わらず踵の部分が地面につくことが多いです。フォアフット走法のトップ選手の動きを見ても、前足部で接地した後に踵の部分が軽く地面に触れているのが分かります。
これは短距離選手でも同様で、オリンピックなどに出場する選手の接地から蹴り出しの流れを見てみると、踵と地面がかなり近くなっています。
陸上のスパイクも同様の原理で推進力を生んでします。
④浮き指とスパイク
— 草野 誓也 (@KANAbeerSeiya) 2020年1月18日
いわゆる「上級者向け」のスパイクはトゥスプリングが高めになってます。
これは適切な足の接地をした時に、プレートがしなって戻る力を大きくしてくれます。
※動画はしならせてる途中で吹っ飛んでいくスパイク。正直ビックリした。 pic.twitter.com/qtvHaL31gh
このとき、内部のカーボンプレートが若干しなり、蹴り出しのときにカーボンの特性から元の形状に戻ろうとするため、自然に次の一歩を踏み出しやすくなります。
これはスパイクで推進力が出るのと同じ仕組みですが、厚底シューズの場合はヒール部分のミッドソールが厚いためスパイクほどしなりません。しかし、ある程度の推進力は得られるでしょう。
ドラゴンフライは「ペバックス(Pebax)プレート」を使用
ナイキのスーパーシューズの1つである「ズームX ドラゴンフライ」。日本記録だけでなく、5000m・10000mの世界記録(ジョシュア・チェプテゲイ選手)でも使われたシューズです。
よく勘違いされがちですが、ドラゴンフライにはカーボンプレートではなくペバックスプレートというものがフルレングスで使われています。
このペバックスは他のスパイクでも使われることが多く、ランニングだけでなくサッカーなどでも使われています。
軽量で反発力が高い素材であり、触ってみた感じではカーボンよりかなり柔らかいため、脚の負担は小さいでしょう。
※スパイクのプレートにペバックスが使われているNBのMMD800
実はズームXにはペバックスが使われている
ヴェイパーフライに使われているズームXは、実はペバックスが使われているのです。詳しい技術は分かりませんが、プレートのような形状ではなく発泡させることでミッドソールの形状に成型しています。
※詳しくはポリアミドブロックとポリエテールブロックを組み合わせており、従来の素材(EVA)よりも軽く、高いエナジーリターンを実現。
ナイキ以外のメーカーでも、ペバックス系(ポリアミド系)の素材を使ったものが増えている印象です。
2つのタイプのカーボン搭載シューズ
ここまでの説明の通り、いわゆるスーパーシューズはカーボンシューズといわれることもありますが、カーボンプレートだけでなく高性能なミッドソールの貢献割合も大きいといえます。
また、このミッドソール+カーボンプレートの組み合わせのシューズは多いですが、シューズによって構造やコンセプトが違うので、選ぶときは注意が必要です。
カーボンプレート搭載シューズは大きく分けて「反発型」と「安定型」の2つあります。
反発型タイプ
反発型タイプは、ヴェイパーシリーズのように反発力が高いミッドソールを使い、カーボンプレートによる推進力を得やすくなっています。ただし、反発を得るための体の使い方が難しく、性能を最大限引き出すためには相当の実力が必要です。
シューズによっては使いこなせず走りにくいと感じたり、クッション性は高くてもすぐに疲れてしまったりします。
いきなりマラソンで使うのではなく、ロング走で使ってみたりハーフマラソンなどで試してみたりすると良いでしょう。
●反発型タイプの例
◎アシックス:メタスピードスカイ
◎アディダス:アディオスプロ、アディオスプロ2
◎ナイキ:ヴェイパーフライNEXT%、アルファフライNEXT%
安定型タイプ
安定型タイプは、ミッドソールが比較的硬くカーボンプレートを組み合わせることで安定感を高めています。ふわふわとした弾力はないものの、転がるように次の一歩を踏み出せるため、負担が小さく長い距離でも快適に走れます。
また、アシックスのガイドソールのようにつま先が反り上がっており、接地後に転がるように体重移動できます。そこに剛性が高いカーボンプレートを使うことにより接地感が高くなっている(母指球で蹴り出しやすい)ため、フォアフット走法で走りやすくなっています。
比較的誰でも走りやすいと感じますが、反発型タイプと比べるとスピードは出にくいです。
●安定型タイプの例
◎アシックス:メタレーサー
◎HOKA ONE ONE:カーボンX
厚底スーパーシューズを履けば誰でも速く走れる?
ここまでの説明の通り、スーパーシューズ(高性能ミッドソール+カーボンプレート搭載)はその構造からスピードを出しやすく、クッショニングが高いため維持しやすいです。
しかし、反発力が高いシューズは地面からの衝撃によるダメージではなく、シューズが生む反発力による反動があります。慣れていないと普段のシューズにはない疲れを感じるでしょう。そのため、ランニングに慣れていない方の場合だと、スーパーシューズを履きこなすのは難しいです。
スーパーシューズによる推進力を得るためには、安定感を高めるために強靭な体幹や脚の筋肉が必要になります。これは、厚底シューズだと接地時にブレやすく、地面に力を伝えて反発を受けるためには、ブレない軸が必要になるからです。
また、スーパーシューズの種類は多いので、自分に合ったシューズを選ぶのも大切です。
厚底スーパーシューズとランナーのそれぞれの役割
従来のシューズと厚底スーパーシューズでは、シューズとランナーが担う役割が変わってきています。
従来のシューズの場合
従来のシューズの場合、シューズは安定性を高める役割を担い、推進力はランナーが生みだしていました。厚底になることで衝撃緩和の性能が高まり(クッショニング)、薄底になることで軽くなる効果と、推進力を活かす効果が高まっていました。
・安定性はシューズ
・推進力はランナー
厚底スーパーシューズの場合
厚底シューズの場合、推進力はシューズが生み出して、それをランナーが支える役割が大きくなっています。(シューズの特性によってバランスは異なる)
軽量で反発性が高い厚底スーパーシューズはエネルギーリターン率が高いですが、そのエネルギーを有効活用するためには、上体などの体のパーツを固定して支えなければなりません。慣性の法則により、上体が固定されているほどシューズが生むエネルギーは有効活用できますが、上体がブレているとエネルギーが上手く地面に伝わらなくなってしまうでしょう。
・安定性はランナー
・推進力はシューズ
実際に履いてみたことがあるシューズの中では、「アルファフライ」が一番この特性が顕著に出ています。「暴れ馬」と呼ばれることもあり、推進力はかなり高いですが安定感はなく、体幹が十分にないと上手く走れません。
途中でエアポッド引きちぎってやろうと思うくらい暴れ馬。アルファフライ。 https://t.co/cPgFHG3hSn
— ランニング食堂@11/7まるおマラソン開催 (@112233barreal) 2021年1月31日
個人的には、アルファフライは「ロードで履けるスパイク」くらいの感覚で走れるシューズだと思っています。スパイクと同じように不安定感や負担はありますが、かなり速く走れます。
さらに、より効率良く走るためには、腕や股関節は伸びるストライドに合わせて大きく動かすことも大切です。このように、厚底スーパーシューズを使いこなすためには、使い方が異なる体のパーツを上手く連動させる必要があります。
・固定する部分:体幹、首(頸椎)、膝、足首
・動かす部分:腕(胸部)、股関節
厚底スーパーシューズでパフォーマンスを高まるために必要なこと
シューズのパフォーマンスを高めるためには、高い競技力が求められます。体力(持久力・心肺能力)を高める以外にも重要なポイントを紹介します。
シューズの特性を理解する
まず、カーボンプレートを搭載した厚底スーパーシューズは、種類によって特性が大きく異なります。そのため、適した走り方を考える前に、履いて走ってみる、シューズに慣れる工程が必要です。走ってみるとシューズに適した走り方や、今の自分に足りないポイントが分かってくると思います。
ただし、これはシューズを購入する前にはできないことなのがかなりの問題点です。
人気があるシューズを買ってみたけど、「何かしっくりこない」ということがあり得ます。自分の走り方には合っていないという場合もあるでしょう。
「シューズに合わせてフォームを変える」というのはランナーにとって大きなストレスだと思います。「どうしてもフォームを変えたくない」という場合は、自分のフォームにあったシューズを選ぶしかありません。
ただ、厚底スーパーシューズは値段も高いので、何足も買うのは抵抗があるでしょう。
購入した厚底スーパーシューズと向き合って自分を変える場合は、先程のポイントを意識するのが大切です。また、ジョグや軽いビルドアップ走などで履いてみて、ペースを上げながらシューズに適した走りを見つけてみるのが良いでしょう。
体幹を中心に全身の筋肉を鍛える
先程の通り、厚底スーパーシューズを使いこなすためには、体力以外にも体幹を中心に全身の筋肉を強化する必要があります。ランナーではお馴染みの体幹以外にも、推進力を高めるために上体全般の筋肉を鍛えることが大切です。
大きな腕振りを継続するためには、腕・胸部の筋肉が必要になるでしょう。他にも、強い反発は股関節に大きな負担をかけます。
補強運動などで筋トレをして各部位を鍛えるのも良いですが、全身の連動を意識し、各部位の動きを意識しやすいファンクショナルトレーニングがおすすめです。
接地感を高める
接地が上手いランナーであれば、安定感がない厚底スーパーシューズでもしっかりと力を伝えて走りやすいです。そのため、接地感を高めて厚底スーパーシューズに慣れることで、力を発揮しやすくなります。
接地感を高めるためには薄底シューズの方が感覚を掴みやすいです。他にも、動きづくりのときやウォーミングアップ、ペースが遅いジョグのときに、母指球を意識して走ると接地感を養いやすいです。
おすすめなのは、アシックスのウィンドスプリントシリーズ。トレーニングシューズであり、スピードを高める接地感を養えます。